大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ネ)1250号 判決

第一二五〇号控訴人

第一二一一号被控訴人

(第一審原告)

森利雄・外一名

代理人

金原藤一・外二名

第一二五〇号被控訴人

第一二一一号控訴人

(第一審被告)

森政雄

代理人

佐藤光将・外二名

主文

昭和三五年(ネ)第一、二五〇事件について

原判決をつぎのとおり変更する。

別紙物件目録記載の不動産を別紙分割目録ならびに分割図面のとおり分割する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審被告(原審反訴原告)の負担とする。

昭和三五年(ネ)第一、二一一号事件について

本件控訴を棄却する。

控訴費用は第一審被告(原審反訴原告)の負担とする。

事実

昭和三五年(ネ)第一、二五〇号事件につき、

原告ら代理人は主文同旨の判決を求め、被告代理人は控訴棄却の判決を求めた。

昭和三五年(ネ)第一、二一一号事件につき

被告代理人は、「(1)原判決を取消す。(2)原告らの本訴請求を棄却する。(3)原告らは別紙物件目録(一)記載の土地は被告の所有であることを確認する。(4)原告森利雄は被告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物ならびに同目録(三)記載の建物中二階五坪を収去してその敷地である別紙物件目録(一)記載の土地のうち北側一五坪五合四勺を明渡せ。(5)訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする。」との判決ならびに右(4)項につき仮執行の宣言を求め、原告ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係≪省略≫

理由

一、被告は、本訴について、別紙物件目録(四)記載の建物の分割を求めることは、訴の変更になるから許されないと主張するが、弁論の全趣旨によると、原告らは、原審において、右物件は元来共有に属するものであるが、第一審被告の居住用に建てたものであるから、分割するときは、この物件は被告の所有とし、これを前提にその他の物件を分割する合意ありとして、原告らにおいて右(四)記載の建物の分割を求めなかつたものであることが認められるから民事訴訟法第二三二条にいわゆる請求の基礎に変更がなく、かつ、著しく訴訟手続を遅滞するものとも認められないので、本件訴の変更は許さるべきである。

二、本件土地の借地名義および第一建物の所有名義が被告となつていたこと、第二建物の建築にあたり原告森利雄が労務を提供したこと、第二建物および本件土地の所有名義が被告となつていること、および、原告森利雄が第三建物を建て、同じころ第一、第二建物が改築されたことは当事者間に争いがない。

三、第一審原告らは、本件土地建物は、いずれも、原告らおよび被告の共有に属するものと主張し、被告は、本件土地、別紙物件目録(三)記載の建物(但し二階五坪を除く)および同目録(四)記載の建物は、被告の単独所有に属するもの、同目録(二)記載の建物および同目録(三)記載の建物のうち二階五坪は、原告森利雄の単独所有に属するものと主張するので判断する。

<証拠によつて認定した事実>によると原告らおよび被告は家族と共に家業であるミシン加工業に相互に協力して従事し、戦災をうけた後は、その再興をはかるため、それまでに蓄積した財産を基にし原告利雄が家督相続によつて得た有形無形の財産をも利用して本件土地の借地権を取得し、第一建物を建築し、家業たるミシン加工業を再開し、それによる利益を主として第二建物を建て、さらに本件土地を取得し、第一、第二建物を改築して貸室(別紙物件目録(三)記載の建物から二階五坪を除いたもの)として、それによる賃料と家業による収益とを主にして右土地の代金の支払をなし、かつ、第三建物(別紙物件目録(二)記載の建物に二階五坪を加えたもの)を建築し、ついで第一、第二建物の敷金および貸室料を基礎とし、かつ、できあがつた建物の貸室料をあてにして別紙物件目録(四)記載の建物を建てた。そして各取得の目的は、家業たるミシン加工業の隆盛をはかり、かつ、家族のすまいの確保および共同事業の繁栄に資するためであつた。このように原告らおよび被告が相協力して営んだ事業による収益を基にして、共同生活および共同事業の目的に資するため取得した物件は、その所有名義をいかにしたかは問わず、原告らおよび被告の共有に属するものと認めるのが相当である。そして右三名のうち特にその者の寄与が格別に大であつたと認められない前記認定事実によれば持分は一応三人平等と認めるが相当である。≪中略≫

四、原告らは、別紙分割目録ならびに分割図面のとおりの分割を求め、第一審被告は右現物による分割は不公平であり、著しく価格を減ずるから現物分割はできないと主張するのでこの点を判断する。

本件分割を求める対象は四筆の不動産であり、その各筆の不動産について、兄弟である原告らおよび被告が平等の持分を有する共有関係にある。斯る関係にある時、共有者からその全部について一括して分割を請求したときは、民法九〇六条の精神からしても、その各筆につき分割することなく、全部を一個の財産として、諸般の事情を考慮して、持分に応じて、場合によつては、一筆の不動産を共有者の一人、他の一筆の不動産を他の共有者の一人に帰属させ、たりない部分は金銭の支払によつて補うなどの方法による分割も許さるべきである。

原告らは、別紙分割目録ならびに分割図面のとおりの分割を求めている。当審における鑑定の結果によると、このような分割は建物を毀損することなく分割可能なことが認められる。そして同鑑定の結果によると、その価格は、原告利雄の分は、土地につき六、〇五二、〇〇〇円、建物につき三六五、〇〇〇円、合計六、四一七、〇〇〇円、原告慎一の分は、土地につき八、六八七、〇〇〇円、建物につき一九五、〇〇〇円合計八、八八二、〇〇〇円、被告の分は、土地につき九、二六五、〇〇〇円、建物につき一、八六〇、〇〇〇円合計一一、一二五、〇〇〇円の価格と認められ、被告の分が最も高価である。

してみると、持分を平等とするとかかる分割は不可能になる。しかし原告らが、本訴においてかかる分割を求めていることは、原告利雄がその持分三分の一と、分割を求める自己取得分との差額を放棄し、原告慎一も同時に本訴において主張する取得分との差額を放棄していることを前提としているものと認めるべきである。

してみると原告らはそれぞれ分割目録記載の持分を主張してその余の持分はいずれも放棄して本訴を提起しているものと認めるのが相当である。そして前認定のとおり本件当事者の本件土地建物の使用状況を考慮し、かつ、右放棄後の持分の割合を併せ考えると原告らの分割請求はこれを正当と認めるべきであるから、別紙分割目録、分割図面のとおり本件物件を分割する。

被告は、本件物件を分割すると著しく価格を減ずるというが、これを売却した売却金を分けることは、原被告らにおいて、一層の不利であることは明瞭であり、現実に土地建物の分割が可能であり、建物としての効用を完了してそれぞれ敷地を分割して使用できるにおいてはかかる主張は理由がない。

五、反訴請求について≪省略≫(千種達夫 渡辺一雄 岡田辰雄)

別紙物件目録、図面≪省略≫

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例